傷病手当金とは?支給額や他の手当との併用について、わかりやすく解説
ご覧いただきありがとうございます。社労士オフィスそらです。
本日は、健康保険の傷病手当金の申請についてご案内いたします。
この記事でわかること
1 傷病手当金とは?
2 支給期間と支給額
3 他の手当と併給できる?
4 支給申請書を提出するタイミングは?
5 まとめ
傷病手当金とは?
傷病手当金とは、業務外の理由による病気やけがで、療養のために一定期間仕事に就くことができず、十分な報酬を受けられないときに支給される手当金のことです。
健康保険の被保険者本人を対象とした制度であり、被保険者やその家族の生活保障を目的としています。
短時間でも就労した日は労務不能とみなされないため、傷病手当金は支給されません。
なお、欠勤日に給与が支払われた場合は、給与の日額と傷病手当金の日額を比較して、傷病手当金が上回ったときに差額が支給されます。
また、国民健康保険には、傷病手当金の制度はありません。(感染症の一時的な措置を除きます。)
任意継続被保険者も、資格喪失後の継続給付(※)に該当しない限り、傷病手当金を受けることはできません。
※資格喪失後の継続給付
退職などで被保険者でなくなった(資格喪失)後においても、一定の条件のもとに保険給付が行われることをいいます。
①被保険者期間が1年以上あること
②退職時に傷病手当金を受けていた(受けられる状態であった)こと
③退職日に休業していたこと
この3つを満たす場合は、支給開始日から1年6か月の範囲で傷病手当金を受給することができます。
支給期間と支給額
支給期間
傷病手当金は、業務外の事由による病気やけがで働けなくなった日から数えて、4日目から支給されます。
労務不能であることは、医師の診断を受けて証明を受けなければなりません。
支給開始までの最初の3日間は、傷病手当金が支給されない期間です。
これを「待期期間」といいます。
待期期間は有給休暇や公休日(会社の定めた休日)でも構いませんが、3日間連続している必要があります。
なお、支給期間は、同一の疾病について、支給開始日から通算して1年6か月間です。
途中で働いて、傷病手当金が支給されない期間がある場合は、その期間をカウントせずに計算します。
参照:令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます(厚生労働省)
支給額
1日あたりの支給額の計算式は、下記のとおりです。
継続した12か月間の、各月の標準報酬月額(※)の平均額÷30日×3分の2
※標準報酬月額とは
社会保険料決定の基礎になる、月額報酬の概算額のことです。
給与の総額を「報酬月額」(円以上~円未満)という一定区分に当てはめた後、50等級の標準報酬月額に区分します。
通常は、4月~6月支給の給与総額の平均額から、9月~翌年8月分の標準報酬月額を決定します。(定時決定)
12か月間は、待期期間が満了し、傷病手当金が初めて支給される日からさかのぼって数えます。
なお、支給開始日以前の期間が12か月に満たない場合には、
①継続した被保険者期間の標準報酬月額の平均額
②全被保険者の標準報酬月額の平均額(※健保協会の場合は30万円です。)
この2つを比較して、低い方の金額をもとに支給額を計算します。
他の手当と併給できる?
他の手当が支給される場合は、傷病手当金の支給が調整されることがあります。
一つずつ確認していきます。
出産手当金
両方を受給できる場合は、出産手当金が優先して支給されます。
※出産手当金とは
出産日(出産が予定日より後になった場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの範囲内で、給与支払いのない期間を対象として支給される手当金のことです。
出産手当金の1日当たりの支給額は、【出産手当金の支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均額÷30日×3分の2】で計算します。
傷病手当金と異なり、出産手当金に待期期間はありません。また、療養中である必要や、傷病で働けないことの診断も不要です。
参照:出産手当金について(全国健康保険協会)
ただし、出産手当金の額が傷病手当金の額よりも少ない場合には、出産手当金との差額が支給されます。
労災保険の休業(補償)給付
休業補償給付は、労働者が労働災害により休業した場合に、4日目から支給される給付金です。
休業補償給付を受けている間に、業務外の理由で労務不能になったとしても、傷病手当金は支給されません。
これは、両制度が生活保障を目的とした制度であり、どちらか一方の支給で、その目的が達成できるとされているためです。
なお、休業補償給付の金額が傷病手当金の額よりも少ない場合には、その差額が支給されます。
また、過去に休業補償給付を受けていて、同じ理由で労務不能になった場合も、傷病手当金は支給されません。
雇用保険に関する給付
傷病手当金と、雇用保険の基本手当(失業給付)・高年齢求職者給付金との併給はできません。
「就職の意思や能力がある(=働くことができる)こと」を前提として支給される基本手当等と、病気やけがで働けない場合に支給される傷病手当金は、目的が異なるためです。
基本手当や高年齢求職者給付金の申し込みをした時点で、傷病手当金の支給対象外になります。
任意継続被保険者である場合
任意継続被保険者(※)のときに発生した病気やけがについては、傷病手当金を受給することができません。
※任意継続被保険者制度とは
一定の条件を満たすことで、最大で2年間、退職前の健康保険に加入できる制度のことです。①従前の被保険者喪失日の前日までに連続した2か月以上の被保険者期間があること②資格喪失日から20日以内に申請することが要件です。
また、任継続被保険者であって、資格喪失後の継続給付に該当した場合は、1年6か月間の範囲で傷病手当金を受給することが可能です。
老齢年金
資格喪失後の継続給付を受けている方が、老齢年金(特別支給の老齢厚生年金を含みます。)を受給する場合、老齢年金が優先して支給されます。
ただし、老齢年金の額の360分の1が傷病手当金の日額より少ない場合は、その差額が支給されます。
なお、在職中の傷病手当金と老齢年金の併給調整はありません。
障害厚生年金または障害手当金(厚生年金保険)
同一事由の傷病で、障害厚生年金または障害手当金を受けている場合は、障害年金が優先して支給されます。
ただし、障害厚生年金の額(同一支給事由の障害基礎年金が支給されるときはその合算額)の360分の1が傷病手当金の日額より少ない場合は、その差額が支給されます。
一時金として支給される障害手当金の場合は、傷病手当金の額の合計額が障害手当金の額と同額になるまで、傷病手当金の支給が停止されます。
支給申請書を提出するタイミングは?
特に決まりはありませんが、休職者の方の生活保障を目的としているため、毎月提出することをお勧めしています。
なお、支給申請書の「申請期間」の欄に未来の日付は記入できないため、申請期間の経過後に提出する必要があります。
支給申請書の一部は、医師の証明を受ける項目ですが、こちらも申請期間の経過後に記載を依頼しなければなりません。
まとめ
傷病手当金のポイント
・傷病手当金とは、業務外の理由による傷病で仕事ができないときに、生活保障を目的として支給される手当金のこと
・支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月間。途中で支給しない期間はカウントしない。
・1日当たりの傷病手当金の金額は【継続した12か月間の各月の標準報酬月額(※)の平均額÷30日×3分の2】
・他の手当との併給調整がある。
本日のご案内は以上です。
ご不明点のある事業主の方、労務ご担当者の方はお気軽にお尋ねください。
参照:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)(全国健康保険協会)