変形労働時間制とは?メリット・デメリットや導入に必要な手順のまとめ

ご覧いただきありがとうございます。社労士オフィスそらです。

本日は、変形労働時間制についてご案内いたします。

目次

1、変形労働時間制とは
2、メリット・デメリット
3、導入に必要な手順のまとめ
4、労使協定締結後の流れ
5、おわりに

変形労働時間制とは

変形労働時間制とは、業務の繁忙期・閑散期に応じて労働時間の配分を変えることで、労働時間の短縮を目指す制度のことをいいます。

労働基準法は、労働時間の限度を1日8時間以内・週40時間以内と定めています。(法定労働時間)

法定労働時間の原則は、どの日も8時間以内、どの週も40時間以内です。

変形労働時間制は、この原則を緩和して、一定期間の総労働時間を平均して週法定労働時間に収まる場合は、法定労働時間の原則の範囲内であるとしました。

これによって、特定の日や週の所定労働時間には、法定労働時間を超えた労働時間を設定することができるようになります。

この変則的な取り扱いのことを、「変形労働時間制」といいます。

変形労働時間制の形態は、以下の4種類です。

①1か月単位の変形労働時間制
②1年単位の変形労働時間制
③1週間単位の非定型的変形労働時間制
④フレックスタイム制


参照:変形労働時間制(厚生労働省 徳島労働局)

ご参考:労働時間の記事はこちら

メリット・デメリット

メリット

特定の日や週に、法定労働時間を超えた労働時間を設定できるため、繁忙期に発生する割増賃金が削減できる場合があります。

業務の繁閑に応じて、従業員がメリハリのある働き方ができる点も魅力的といえます。

デメリット

導入に手間がかかること、特定の期間で労働時間を集計するため、勤怠管理が複雑になることが挙げられます。

また、長時間働いた日に割増賃金がもらえないことで、従業員のモチベーションが低下することがあります。

導入に必要な手順のまとめ

導入に必要な手順を確認していきます。

1か月単位の変形労働時間制

1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の一定期間(「変形期間」または「対象期間」といいます。)を平均して、1週間の労働時間が法定労働時間を超えない範囲で、法定労働時間の規制を超えて労働させることができる制度です。

書面による労使協定(※)や就業規則等で、以下の事項を具体的に定めることで、導入することが可能です。

※労使協定とは
使用者が、労働組合や労働者の過半数代表者との間で、特定の内容を書面で約束することです。
時間外・休日労働(36協定)や変形労働時間制の導入にあたり、有効期間を定めた上で、労使協定を締結します。


変形労働時間制を採用する旨の定め

対象となる労働者の範囲

変形期間・起算日(変形期間の初日のことです。)

労働日・労働時間の特定

変形期間の労働時間や休日は、シフト表やカレンダーで具体的に定めた上で、労働者に周知する必要があります。

なお、特定した労働日や労働日ごとの労働時間を、後から任意に変更することはできません。

また、変形期間の労働時間の上限は、次の式で計算した範囲内で定めなければなりません。

法定労働時間の総枠=1週間の法定労働時間(40時間or44時間※)×対象期間の歴日数/7

※常時使⽤する労働者数が10人未満の商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、 接客娯楽業の1週間の法定労働時間は44時間です。(「特定措置対象事業場」といいます。)

作成した労使協定や就業規則は、労働基準監督署に届出が必要です。


参照:「1箇月単位の変形労働時間制」導入の手引き(東京労働局労働基準部)、1か月単位の変形労働時間制(厚生労働省)

1年単位の変形労働時間制

1箇月を超え1年以内の期間を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場も同様)を超えないことを条件に、特定の日や週において法定労働時間の規制を超えて労働させることができる制度です。

導入においては、労使協定の締結・労基署への届出が必要です。

労使協定で締結する事項は次のとおりです。

対象となる労働者の範囲

対象期間(1か月超1年以内)・起算日

特定期間
特に業務が繁忙な時期を定めることができます。

労働日・労働日ごとの労働時間
対象期間の全期間について定めた上で、シフト表や年間カレンダーで労働者に周知する必要があります。(※)

※労働時間の特定の特例
対象期間を1か月以上の期間ごとに区分した場合は、最初の期間以外の労働日・労働日ごとの労働時間を、全て定める必要はありません。(各期間の労働日数・総労働時間は定める必要があります。)
この場合、①区分された各期日の30日前までに労働日・労働時間を特定②労組or労働者の過半数代表者の同意を得て、書面で定めることで足ります。
なお、特定された労働日・労働時間を変更することはできません。


労使協定の有効期間

また、労働日及び労働日ごとの労働時間に関しては、次のような限度があります。

対象期間の労働日数・労働時間限度日数・限度時間
労働日数の限度
(※対象期間が3か月超の場合のみ)
280日間
※対象期間が、3か月超1年未満の場合は、「280日×対象期間の歴日数/365」で計算した日数(端数切捨て)
1日および1週間の労働時間の限度1日10時間、1週間52時間
※対象期間が3か月間超の場合は、一定の制約あり
対象期間・特定期間に連続して労働させる日数の限度対象期間は6日、特定期間は最大12日間(1週間に1日の休日が確保できる日数)

常時10人以上の労働者を使用している事業所は、労使協定のほか、就業規則に変形労働時間制を採用する旨を規定し、労基署に届出が必要です。


参照:1年単位の変形労働時間制(厚生労働省 兵庫労働局)

1週間単位の非定型的変形労働時間制

1週間単位の非定型的変形労働時間制は、規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業において、 労使協定によって、1週間単位で毎日の労働時間を定めることができる制度です。

労使協定によって、1週間の労働時間が40時間(特例措置事業場も同様)を超えないこと・超過した場合には割増賃金を支払うことを定め、労基署に届け出る必要があります。

なお、1日の労働時間の上限は10時間です。

参照:1週間単位の非定型的変形労働時間制(厚生労働省 兵庫労働局)


フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、3か月以内の一定期間(「清算期間」といいます。)における総労働時間をあらかじめ定めておき、従業員がその枠内で各日の始業・終業時刻を自主的に決定して働く制度のことです。

始業・終業時刻を労働者に委ねる旨を就業規則に規定した上で、労使協定で次の事項を定める必要があります。

対象となる労働者の範囲

清算期間(3か月以内)

清算期間の総労働時間

標準となる1日の総労働時間

コアタイム・フレキシブルタイムを設ける場合は、その時間帯の開始・終了時刻(※導入は任意です。)

コアタイムは必ず勤務するべき時間、フレキシブルタイムは、いつ出社or退社してもよい時間帯のことです。

清算期間が1か月を超える場合は、労使協定を労基署に届け出なければなりません。

参照:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き(厚生労働省)

割増賃金は必要なの?

変形労働時間制の場合も、割増賃金は発生します。

例えば、1か月単位の変形労働では、日ごと→週ごと→変形期間ごとに労働時間を確認して、あらかじめ定めた各日・各週の労働時間を超えていた場合には、割増賃金を支払う必要があります。

(1日8時間・週40時間を超える時間を設定していた場合はその時間、それ以外は8時間・週40時間超の場合に割増賃金が発生します。)

なお、変形期間の法定労働時間の総枠を超過しているときも、割増賃金の支払いが必要となります。

その他、1週間単位の変形労働でも、1日10時間・週40時間超過分に対する割増賃金、1年単位でも、日ごと→週ごと→対象期間ごとに集計の上、割増賃金を支払う必要があります。

計算が複雑になりますが、割増賃金の正しい計算と支払いが必要です。

労使協定締結後の流れ

変形労働制の導入にあたっては、1か月単位の変形労働時間制で就業規則等によって導入する場合を除いて、労使協定の締結が必要です。

作成した労使協定は、労働基準監督署に提出します。(フレックスタイム制では、清算期間が1か月超の場合に提出します。)

しかし、労使協定を締結しても、従業員に当然に変形労働を命じることができるわけではありません。

会社のルールである就業規則等に、労働条件として変形労働制を定めることによって、労働契約の内容として拘束力が生じます。

なお、常時10人以上の労働者を使用する事業所が変形労働制を導入した場合は、労基署に就業規則変更届の提出が必要です。

おわりに    

変形労働時間制は、労働時間の短縮や、従業員の柔軟な働き方を支援する制度です。

労働時間や時間外手当については適正な取り扱いが必要です。

ご不明点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。