社会保険の扶養とは?パートタイムの方の社会保険・年収の壁について解説
ご覧いただきありがとうございます。社労士オフィスそらです。
本日は、社会保険の「扶養」の意味と年収の壁についてご説明します。
この記事でわかること
1 社会保険の扶養とは?
2 最近よく聞く年収の壁って何?
3 年収の壁・支援強化パッケージについて
4 終わりに
社会保険の扶養とは?
社会保険の「扶養」とは、健康保険の扶養と、その認定基準に連動する、国民年金の第3号被保険者としての要件を満たすことをいいます。
「主として被保険者により生計を維持されているか」を、各保険者(健保協会、健保組合)が認定基準に沿って判断します。
健康保険
扶養の認定対象者が被保険者と同一の世帯に属している場合は、
・年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または一定の障害状態であるときは180万円未満)
・被保険者の年間収入の2分の1未満であることが必要です。
※上記に該当しない場合も、認定対象者の年間収入が130万円未満(60歳以上または一定の障害状態であるときは180万円未満)&被保険者の年間収入を上回らない場合、被扶養者となる場合があります。また、別居の場合は、認定対象者の収入が、被保険者からの援助による収入額より少ないことが要件です。
被扶養者となれる方は、「被保険者によって生計を維持されている3親等内の親族であり、後期高齢者医療保険に加入していない75歳未満の方」です。
なお、関係性によって、同居が必要になることもあります。
※被保険者とは
健康保険に加入し、病気やけがなどをしたときなどに必要な給付を受けることができる人のこと
※生計維持とは
生計を同じくしていること(日常生活を営むお金を同じ家計から支出していること)に加えて、年収の基準を満たすことが必要
参照:被扶養者とは(全国健康保険協会)
また、年収は「今後1年間の収入見込み」で判断します。
退職などで状況が変わったときは、状況が変わったときから今後1年間の見込み収入が判断の対象です。
非課税の場合であっても、継続して得られるものは全て収入として扱います。
国民年金
第3号被保険者(※)として認定を受ける基準は、健康保険の認定基準に沿うものとされています。
そのため、保険料の支払いを免除される基準も、健康保険の扶養認定の基準と同様となります。
※第3号被保険者とは
国民年金の加入者で、第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者のこと。日本国内に居住し、生計維持要件を満たす必要がある。保険料を個別に納める必要はない。
参照:第3号被保険者(日本年金機構)、第3号被保険者制度について(厚生労働省 年金局)
なお、第2号被保険者の要件については注意点があります。
適用事業所に使用される被保険者である場合、厚生年金には70歳まで加入します。
しかし、65歳以上&老齢年金の受給要件(受給資格期間の10年間を満たす)を満たす方は、第2号被保険者とはなりません。
この場合、第3号被保険者であった被扶養配偶者は、「第2号被保険者に扶養されている」という要件を満たさなくなります。
そのため、60歳までは国民年金の第1号被保険者として、保険料を支払わなければなりません。
なお、健康保険の被扶養者に関する手続きは不要です。(健康保険の被扶養者は75歳未満の方が対象であるためです。)
最近よく聞く年収の壁って何?
「年収の壁」という言葉を聞く機会が増えました。
社会保険上の「年収の壁」とは、106万円・130万円を基準に、社会保険料の負担を防ぐために年収を抑えようとする金額の境界線のことをいいます。
参照:「年収の壁」対策がスタート!パートやアルバイトはどうなる?(政府広報オンライン)
2つの金額の基準については下記のとおりです。
106万円の壁
従業員が101人以上(令和6年10月以降は51人以上) |
賃金が月額8.8万円以上(年収に換算すると約106万円以上) |
週の所定労働時間が20時間以上 |
学生でなく、2か月を超える雇用見込みがある。 |
上記を満たすと、130万円未満にも関わらず、パート先の企業で健康保険・厚生年金保険に加入する必要が生じます。
(健康保険と厚生年金は、加入基準が同一のため、基本的にセットで加入します。)
健康保険に加入するメリットは、傷病手当金や出産手当金の受給が可能になること(※)です。各種手当金の制度は、国民健康保険や被扶養者にはない制度です。
※傷病手当金とは
業務外の理由で病気やけがをして会社を休んだときに、最大で1年6か月間支給される手当のこと。金額は給与の3分の2相当。
※出産手当金とは
出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間を対象として支給される手当のこと。支給額は給与の3分の2相当。
参照:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)(全国健康保険協会)、出産で会社を休んだとき(同左)
また、厚生年金に加入するメリットとして、年金が2階建てになり、将来もらえる年金額が増えること、障害年金の保障範囲が広がること(※)が挙げられます。
※障害年金の保障範囲
障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金がある。障害厚生年金の方が保障が手厚く、加入月が短くとも、300月分(25年間)の給付が確保される。障害厚生年金独自の制度として、障害手当金という一時金制度もある。
参照:社会保険適用拡大特設サイト(厚生労働省)
しかし、健康保険料・厚生年金保険料の負担が発生することから、短時間労働者の方が退職してしまったり、就業調整をするという問題がありました。
130万円の壁
従業員が100人以下(令和6年10月以降は50人以下) |
年間収入が130万円以上 |
1週間の所定労働時間が一般社員の4分の3未満かつ、1週間の所定労働日数が一般社員の4分の3未満 |
短時間労働者の方がパート先の社会保険に加入するためには、1週間の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上である必要があります。(4分の3要件)
この4分の3要件を満たさないのに、年収が130万円を超えてしまうと、扶養の認定基準を満たさなくなります。
・扶養の認定基準を満たさない。=第3号被保険者でなくなる。
・パート先の社会保険には、4分の3要件を満たさないので加入できない。=第2号被保険者ではない。
上記の場合、自ら国民健康保険に加入し、保険料を支払わなくてはなりません。
さらに、第1号被保険者として、月々の国民年金保険料を支払う必要も生じます。
この場合、106万円の方と異なり、厚生年金の被保険者期間が増えない、つまり第3号被保険者であるときと将来の年金額は何ら変わらないのに、保険料負担のみが発生することになります。
健康保険においても、傷病手当金や出産手当金の制度はありません。
年収の壁・支援強化パッケージについて
上記の問題解決の取り組みとして、「年収の壁・支援強化パッケージ」という施策が令和5年10月より始まりました。
これは、年収の壁を意識せずに働くことができる環境を、事業主と従業員で実現するために行われた施策です。
主な取り組みは下記のとおりです。
106万円の壁 | キャリアアップ助成金で事業主を支援 |
130万円の壁 | 収入が一時的に130万円を超過したときでも、事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能 |
参照:年収の壁・支援強化パッケージ(厚生労働省)
また、事業主には、配偶者手当の見直しなども提唱されました。
終わりに
就業時間を増やすことで、働けなくなったときのリスクを管理し、年金を積み上げていくことは、有益な選択肢の一つです。
第3号被保険者制度には様々な意見がありますが、自分に合った働き方や環境、ご家族の意向は一人ずつ異なります。
ご自身が納得できる働き方を選択することが大切です。
本日のポイント
・社会保険の「扶養」とは、健康保険の扶養&その認定基準に連動する、国民年金の第3号被保険者の要件を満たすこと
・社会保険の「年収の壁」とは、106万円と130万円を基準に、社会保険料の負担を防ぐために年収を抑えようとする金額の境界線のこと
・社会保険に加入するメリットとして、健康保険給付の充実、年金額のアップ、保障の充実などが挙げられる。
本日のご説明は以上です。
ご不明点のある事業主の方、労務ご担当の方はお気軽にご相談ください。