遺族年金の改正案の内容は?働き方の変化に伴う見直しについてまとめ
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本日は、令和6年7月に社会保障審議会にて審議された、遺族厚生年金の改正案についてご案内いたします。
目次
1、遺族年金の改正案と、現行の遺族年金について
2、改正の趣旨・具体的な改正案の内容は?
3、改正案の内容
4、改正のポイントと配慮措置
5、まとめ
遺族年金の改正案と、現行の遺族年金について
令和6年7月の社会保障審議会(年金部会)で、遺族年金制度の見直しが審議されました。
主な論点は、子どもがいない配偶者の、遺族厚生年金の受給条件に関する男女差の見直しです。
遺族年金は、国民年金・厚生年金保険の被保険者(or被保険者であった方)が死亡したときに、その方に生計を維持されていた遺族の生活を保障するための年金です。
国民年金の被保険者に対する「遺族基礎年金」と、厚生年金の被保険者に対する「遺族厚生年金」があります。
遺族年金の受給権者は、次のとおりです。
- 遺族基礎年金→子のある配偶者or子
- 遺族厚生年金→配偶者・子・父母・孫・祖父母のうち、最も優先順位の高い方
※子の定義について
「子」とは、18歳になる年度末or20歳未満で障害等級2級までに該当する、未婚の子のことをいいます。
上記の年齢に達した場合、遺族年金では「子」に該当しないため、配偶者は「子のない配偶者」となります。
子のいない配偶者には遺族基礎年金は支給されず、遺族厚生年金のみが支給されます。
そして、遺族厚生年金には年齢による男女差があります。
主な違いは次のとおりです。
【妻の場合】
- 夫の死亡時に30歳未満の子のない妻:死亡から5年間、遺族厚生年金が支給されます。(5年間の有期給付)
- 夫の死亡時に30歳以上の子のない妻:再婚等の一定の失権事由に該当しない限り、生涯にわたって支給されます。
- 夫の死亡時に40歳以上65歳未満の妻:遺族厚生年金に上乗せして、年間約60万円の「中高齢寡婦加算」(※)が支給されます。
※中高齢寡婦加算とは
夫の死亡時に40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子がいない妻に支給される、遺族厚生年金の上乗せ給付のことをいいます。
なお、遺族基礎年金を受給していた子のある妻には、子が一定年齢となって、遺族基礎年金を受給できなくなったときから加算されます。
【夫の場合】
- 妻の死亡時に55歳未満:遺族年金の支給はありません。
- 妻の死亡時に55歳以上:遺族厚生年金の受給権が発生しますが、実際の受給開始は60歳からです。
※子がいる場合は55歳から60歳の間であっても受給できます。
今回の改正案では、年齢による男女差を解消し、より公平な受給条件にすることが示されました。
改正の背景・具体的な改正案の内容は?
制度改正の背景
改正の背景として、女性の就業率向上・共働き世帯の増加による社会経済状況の変化が挙げられています。
遺族年金は、「夫が生計を維持している」という前提に基づいた制度です。
夫と死別後の妻は、働いて生計を立てることが困難だとされていたため、妻に対する年金給付が夫と比べて手厚くなっていました。
女性の就業率向上や、男女間の賃金格差の縮小を背景に、女性をとりまく環境が変化していると判断された結果、今回の改正案が提案されました。
改正案の内容
①子のない妻に対する、5年間の有期給付の年齢を引き上げ
現在30歳未満である5年間の有期給付の対象年齢を、法改正の施行日から、40歳未満に引き上げます。
さらに、施行から20年程度の時間をかけて、有期給付の年齢を段階的に引き上げていきます。
最終的に、60歳未満の妻の遺族厚生年金は、5年間の有期給付となる予定です。
②60歳未満の夫を、有期給付の対象者に
施行日から、60歳未満の夫を5年間の有期給付の対象とします。
20代から50代の配偶者に対する遺族厚生年金は、男女とも、最終的に5年間の有期給付となる予定です。
②中高齢寡婦加算の段階的な縮小
施行日以降、中高齢寡婦加算を年度ごとに縮小していき、最終的に廃止する予定です。
改正のポイントと配慮措置
ポイント
改正案のポイントをまとめます。
①既に、遺族厚生年金の受給権が発生している方には影響がない。
法改正の施行日より前に受給権が発生している方は、現行の制度のままです。
②60歳以降に配偶者が死亡した場合の遺族厚生年金は、今ままでと変わらない無期給付である。
高齢の配偶者に対する遺族厚生年金は、生涯にわたって支給されます。
③子のいる妻・夫の遺族厚生年金の受給額に変更はない。
一律で5年間の有期給付となるわけではなく、子のいる妻・夫の年金は、現行どおり支給されます。
配慮措置
有期給付の対象者拡大に伴って、受給期間が短くなる方に対して、次のような配慮措置が予定されています。
①夫の厚生年金記録の分割を検討
妻の厚生年金記録に、夫の厚生年金加入記録の一部を上乗せして、妻の65歳以降の年金額を増やすことが検討されています。
②収入要件の撤廃案
遺族年金は、死亡した方に生計を維持されていた遺族(※)に対して支給される年金です。
※生計を維持されていた遺族とは
死亡した被保険者と生計を同じくし、収入が将来にわたって年収850万円以上にならないと認められること、という2つの要件を満たす遺族のことです。
この収入要件を撤廃して、受給対象者を拡大することが検討されています。
③「有期給付加算」の検討
現行、遺族厚生年金の金額は、死亡した被保険者の老齢厚生年金の4分の3程度です。
「有期給付加算」として、現行の遺族厚生年金への上乗せ給付を作ることで、有期給付の遺族厚生年金の金額を、死亡した被保険者の老齢厚生年金と同程度にすることが検討されています。
まとめ
記事のポイント
- 子どもがいない配偶者の、遺族厚生年金の受給条件に関する男女差の見直しが審議された。
- 改正案の主な内容は、①子のない妻に対する5年間の有期給付の年齢引き上げ②有期給付の対象者拡大③中高齢寡婦加算の段階的縮小
- 既に受給権がある方には、改正の影響はない。また、60歳以降に遺族年金の受給権が発生した場合は、現行通り、生涯にわたって支給される。
- 改正案の配慮措置が検討されている。
改正案は、今後も変更されることがあるため、注視する必要があります。
ご不明な点があれば、お気軽にお問い合わせください。
参照:遺族年金制度等の見直しについて(厚生労働省 年金局)