転勤を拒否する労働者への対応は?配転命令と人事異動のポイント

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本日は、 配転命令と人事異動のポイントについてご案内いたします。

配転の定義

「配転」とは、労働者の配置変更のことです。人事異動の一環として、労働者の職務内容や勤務場所が、相当の長期間にわたって変更されることをいいます。

※同一事業所内の職務内容の変更を「配置転換」、勤務地の変更を「転勤」と呼びます。配置転換と転勤を合わせたものが「配転」です。


使用者には、配転権限が広い範囲で認められています。労働契約は、労働者が労務の提供に関して使用者に包括的に委ねることが前提であるためです。

下記を満たす場合、原則として、使用者は個々の労働者の同意なしに配置転換や転勤を命じることできます。

  • 就業規則に、業務上の都合により配置転換や転勤を命じることができる旨の根拠条文があること
  • 配転の実績があること
  • 労働契約で勤務地や職種が限定されていないこと(※)

※勤務地・職種限定の合意の有無は、労働契約上明示されている場合のほか、採用状況や配転の実績、労働者の職種(技能や資格を要するか)・業務内容・従事していた期間、配転命令の目的等から総合的に判断されます。

参照:労働条件に関する総合情報サイト 確かめよう労働条件  2-2 「配置転換」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性(厚生労働省)

配転命令について

配転命令、特に転居を伴う転勤は、労働者の生活に大きな影響を与えます。

命令権の権利濫用を避けるため、次の点に注意しなくてはなりません。

  1. 業務上の必要性があること

    労働力の適正配置等、企業の合理的な運営に寄与する点が認められる限りは、広く業務上の必要性が認められる傾向にあります。

  2. 不当な動機や目的がないこと

    報復や嫌がらせ、退職に追い込むため等に配転命令をすることは許されません。

  3. 人選に合理性があること

    「この方でなくてはならない」ということまでを求めるものではありません。

  4. 手続きの遵守・労務管理上の配慮を尽くしているか

    就業規則に定めた手順に従って、適正に配転手続きを行う必要があります。なお、通常の労働者が、受け入れるべき程度を超えるほどの不利益(※)を与えない限り、権利の濫用にはあたりません。

※仕事上の不利益の例:大幅な賃金の減額、キャリア形成に支障が生じる等

※私生活上の不利益の例:家族の病気や介護、本人の病気治療に支障が生じる等


権利の濫用にあたる場合、配転命令は無効となります。

配転命令を拒否された場合の対応は?

労働者に配転命令を拒否された場合、労働者の意向を聴取し、理由を確認しましょう。

配置転換や転勤が必要な理由を丁寧に説明した上で、納得を得ることが大切です。

給与や手当の面で不安を持っている可能性もあるため、家賃補助や単身赴任手当の支給等、待遇の見直しも検討します。

どうしても同意が得られない場合は、処分を検討することもありますが、トラブルを防ぐ観点からも、できる限り避けるべきでしょう。

なお、職種限定の合意がある場合は、使用者は労働者との個別合意なしに配置転換を命じることはできません。


育児介護休業に関する配慮について

事業主は、就業場所の変更を伴う場合、労働者の子の養育または家族の介護の状況に配慮しなくてはなりません。(育児介護休業法第26条)

「配慮」とは育児や介護の負担を軽減するための積極的な措置を講ずることまでを求めるものではありません。

しかし、仕事と生活の調和の観点からも、労働者の子の養育や介護に関する事情を把握し、本人の意向を斟酌することが大切です。

参照:育児・介護休業法のあらまし(厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室))

まとめ

配転命令のポイント

  • 「配転」とは、労働者の配置変更のこと。人事異動の一環として、労働者の職務内容や勤務場所が相当の長期間にわたって変更されることをいう。
  • 使用者には、一般的に広範囲で配転権限が認められる。なお、命令権の濫用は許されない。
  • 命令権の権利濫用に該当するかは、①業務上の必要性②不当な動機や目的がないか③人選の合意性④適正手続き・労働者への配慮等から判断する。
  • 配転命令を拒否する労働者に対しては、意向を聴取の上、できる限り事情を斟酌することが望ましい。待遇面の見直しや丁寧な説明により、労働者の理解と納得を得ることが大切。

本日のご案内は以上です。
ご不明点のある事業主の方、労務ご担当者の方はお気軽にお問合せください。

参照判例:東亜ペイント事件(最二小判昭和61年7月14日)、九州朝日放送事件(最一小判平成10年9月10 日)、滋賀県社会福祉協議会事件(最二小判令和6年4月26日)