労働保険(労災保険・雇用保険)

労働保険とは、「労働者災害補償保険(労災保険)」と「雇用保険」の総称です。

保険給付は両保険制度で別個に行われますが、保険料の徴収は、原則として同時に行います。

以下、各保険制度の概要についてまとめています。

労災保険(労働者災害補償保険)

労災保険とは、どのような制度ですか。

労働者の業務上や通勤中の怪我や病気に対して、保険給付を行う制度です。

労働者に一定の障害が残った場合や、死亡した場合のご遺族への補償、社会復帰を促進する事業等も担っています。

加入対象となる事業所はどのような事業所ですか。

労働者を1名でも雇用している事業所は、法人・個人事業を問わず、全て加入の対象です。

但し、農林水産の一定の事業を除きます。

労災保険の適用事業所になったときに、事業主が提出する書類は何ですか。

「労働保険 保険関係成立届」と「概算保険料申告書」の2点です。

保険関係成立届は、保険関係成立日から10日以内に労働基準監督署またはハローワークに提出します。

その際、今後の手続きに必要となる労働保険番号が付与されます。

その後、概算保険料申告書にて今年度分の労働保険料の見込み額を計算の上、概算保険料として申告・納付します。

保険料負担はどのようになっていますか。

全て事業主負担です。労働者の負担はありません。

毎年4月1日から翌年3月31日までに、労働の対価として労働者に支払った賃金総額に、業種ごとの保険料率をかけて保険料を計算します。

そして、先払いした概算保険料との差額を確定保険料として申告・納付するとともに、来年度の概算保険料を計算の上、納付します。

この手続きを「年度更新」といいます。毎年6月1日から7月10日までの間に行わなければなりません。

雇用保険

雇用保険はどのような制度ですか。

雇用に関する総合的な支援を行う制度です。

労働者の生活や雇用の安定、就業促進、職業能力の開発や向上を目的とした事業を行います。

基本手当(失業給付)が代表的ですが、再就職の援助を目的とした給付、教育訓練を受講した場合の給付、育児・介護休業を取得した場合の給付など、雇用に関する包括的な機能を有しています。

初めて雇用保険の対象事業所となったときに、提出する書類は何ですか。

「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」の提出が必要です。

管轄のハローワークに、労働保険 保険関係成立届の控えと併せて提出します。

保険料の負担はどのようになっていますか。

労働者と事業主双方が負担します。雇用保険率は事業の種類によって異なります。

事業主は、労災保険とともに、一年に一度、保険料を計算して納付します。

なお、労働者負担分の保険料は、社会保険料を控除する前の金額から計算します。

社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金)

社会保険とは、健康保険、介護保険、厚生年金保険の総称です。

(前述の労働保険を含めて、5つの保険を広義の社会保険と総称することもあります。今回は3つの総称として説明しています。)

会社単位で適用となり、適用事業所に常時使用される方は、全て「被保険者」です。

加入基準について教えてください。

被保険者1名以上の法人事業所と、常時5人以上を使用する個人事業所(一定の業種を除きます。)は、法律で加入が義務付けられています。

加入要件を満たす方は、年齢や国籍にかかわらず被保険者となります。

なお、原則として70歳以上の方は、健康保険にのみ加入します。

パートやアルバイトでも社会保険に加入する必要がありますか。

短時間労働者の方でも、一定の要件を満たせば、社会保険に加入しなければなりません。

加入基準は、事業所の規模や月額賃金等により異なります。

社会保険に加入するメリットは何ですか。

健康保険のメリットは、給付の充実と保険料負担の軽減、厚生年金のメリットは、年金額の増加と保障の拡充です。

1、医療給付の充実

病気や怪我で働けない場合に、傷病手当金の受給が可能です。また、出産したときに出産手当金を受給できます。

両制度は国民健康保険にはない制度です。

2、保険料負担の軽減

協会けんぽの場合、会社と保険料を半分ずつ負担します。

なお、健保組合の場合は、事業主の負担割合を増やすことも可能です。

3、将来受け取る年金額の増加

年金制度は国民年金と厚生年金の2階建てのため、厚生年金を納めることで、将来受け取る年金を増やすことができます。

4、保障の拡充

国民年金に比べて、障害年金や遺族年金の支給対象が拡大されています。

加入期間が短くても、300月(25年分)とみなして受給額を計算する仕組みもあるため、一定の保障が確保できます。

    健康保険・介護保険

    健康保険にはどのような給付がありますか。

    保険証を利用して、一部負担金(原則3割)を支払うことで、必要な給付を受けることができます。

    その他、下記の給付があります。

    ・医療費が高額になった場合の払い戻し制度(高額療養費)
    ・病気や怪我で給与を受け取れない場合の給付(傷病手当金)
    ・出産に伴う給付(出産育児一時金、出産手当金)
    ・資格喪失後の継続給付
    ・死亡した場合の給付(埋葬料) など

    介護保険とは何ですか。

    介護や支援が必要な人に対し、必要な保険給付を行う制度です。

    40歳以上65歳未満の方を介護保険の「第2号被保険者」、65歳以上の方を介護保険の「第1号被保険者」といいます。

    第2号被保険者の方は、保険料を労使で半分ずつ負担します。

    (健保組合は、異なる割合を定めることができます。)

    65歳以降は、被保険者区分が切り替わるため、お住まいの市区町村に保険料を納付します。

    保険料について教えてください。

    健康保険料は、各種手当を含む数か月間の給与の平均額を、「報酬月額」という区分に分類した後、50等級の「標準報酬月額」にあてはめて算出します。

    介護保険料は、協会けんぽの場合、40歳以上65歳以下の方は全国一律の料率で計算します。

    (健保組合は、異なる料率を定めることができます。)

    65歳以上の方は、お住まいの市区町村によって介護保険料が異なります。

    保険料はいつ決まりますか。

    被保険者が資格を取得したときに、一定方法に基づいて決定します。(資格取得時決定)

    毎年改定があり、7月1日に使用される事業所において、4月~6月の3か月間に受けた報酬の平均額から、9月~翌年8月までの各月の標準報酬月額を決定しています。(定時決定)

    その他、固定的賃金に変動があり、従前の標準報酬月額と2等級以上変動があったとき(随時改定)や、育児休業終了時にも保険料の改定があります。

    健康保険、厚生年金は原則としてセットで加入しますので、厚生年金保険料も同様の手続きで決定します。

    厚生年金保険

    厚生年金にはどのような給付がありますか。

    老齢給付(老齢厚生年金)、障害給付(障害厚生年金)、遺族給付(遺族厚生年金)の3つの給付があります。

    障害厚生年金は、1等級~2等級の障害に該当した場合、障害基礎年金に上乗せして支給されます。

    その他、障害厚生年金にのみ、3等級の障害に該当した場合の給付や、障害手当金の支給があります。

    遺族厚生年金も、遺族基礎年金に比べ、支給対象となる方が多くなっています。

    保険料について教えてください。

    給与(通勤手当や残業代を含む)を一定の金額毎に分類し、32等級ある標準報酬月額にあてはめます。

    分類後、18.3%(固定)の保険料率をかけて、保険料を計算します。

    なお、保険料は労使で半分ずつ負担します。

    年金制度について

    日本の年金制度は、国民年金と厚生年金の2階建てです。

    国民年金保険料は全国一律で、毎年度、見直しが行われます。

    厚生年金保険料は、標準報酬月額に固定された料率(18.3%)を乗じて計算します。

    以下、国民年金についてまとめています。

    国民年金

    対象者について教えてください。

    日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の方で、厚生年金に加入していない全ての方が対象です。

    厚生年金に加入している方(第2号被保険者)は、厚生年金被保険者であると同時に、国民年金の被保険者となります。

    保険料の負担はどのようになりますか。

    自営業者などの第1号被保険者は、1カ月あたり16,980円を負担します。(令和6年度)

    会社員などの第2号被保険者は、加入制度から国民年金に拠出金を支払っているため、厚生年金の保険料以外に、保険料を拠出する必要はありません。

    なお、第2号被保険者に扶養されている第3号被保険者は、個別に保険料を納める必要はありません。

    40年間保険料を納めると、国民年金はいくら受給できますか。また、受給額を増やす方法はありますか。

    20歳から60歳まで満額を納めた場合は、月額約68,000円を受給できます。(令和6年度)

    受給額を増やすために、以下の方法が考えられます。

    1、繰り下げ受給を行う

    受給開始年齢である65歳に年金を受け取らず、66歳~75歳までの間で受給することを「繰下げ受給」といいます。

    繰下げた期間によって年金額が増加するため、一生涯、増額した年金を受給できます。

    2、任意加入被保険者になる

    40年間の加入期間がなく、一定の要件を満たす方は、60歳~65歳の間で国民年金に加入することで、保険料納付期間を増やすことができます。

    3、付加保険料を支払う

    第1号被保険者・任意加入被保険者の方は、月額400円の付加保険料を追加で支払うと、老齢基礎年金の受給時に付加年金を上乗せして受給することができます。

    付加年金の支給額は「200円×付加保険料納付月数」のため、2年以上受け取ると、納付額が受給額より大きくなります。

    終わりに

    その他、トップページにて、労務関係の記事を投稿しております。

    是非ご覧ください。

    参照
    労働保険制度(厚生労働省)
    健康保険の給付について(全国健康保険協会)
    年金の制度・手続き(日本年金機構)